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2017年12月19日

r*cove life~⑧古くなるのが待ちどおしい~

大きな買い物はめったにしない私ですが、「ベスパ」というイタリア製のアンティークなスクーターがどうしても欲しくて、数年前、1965年製の中古をイタリアから個人輸入で購入しました。
妻は最初反対しましたが、「映画の『ローマの休日』でアン王女と新聞記者が2人乗りしてるアレだよ」と説明すると、オードリー・ヘップバーン好きの彼女は、「じゃ、いいかも」と快諾してくれたのです。

 

アン王女になりきって自分が後ろに乗っている姿でも想像したのかもしれません。まあそれはいいとして、そのベスパを修理するときに、あまりに古かったせいかお店の人から「全部、塗装しなおしますか?」と聞かれました。とんでもない!  レトロ感がベスパのいいところなのにピカピカになっちゃったらベスパでなくなってしまいます。

 

 

家具などの塗装が長い年月を経て風合いをもった色に変化していくことをスペイン語で「パティーナ」と言うそうです。日本語だと、時間とともに美しさを増していくという意味の「経年美」にあたるでしょうか。日本でも骨董を愛でる文化がありますが、ヨーロッパではあらゆるものにパティーナを見出して珍重します。

 

そのひとつが家です。先にもお話したように、彼らの古い家というのは無垢材や漆喰といった伝統的な建材を使い、何百年ともつように丈夫につくられています。日本で「古い家」というと築20年以上の家を想像するでしょうが、ヨーロツパでは桁が違います。100年くらい前の建物でも「まだ新しい。あと2、300年はもつ」くらいの感覚です。そうした気の遠くなるような年月の中で、ヨーロッパの家は、無垢材の柱や床の色調が微妙に変化したり、漆喰壁から年代モノ特有の模様が浮き出るなどして、パティーナが備わっていくのです。

 

そんな「ご長寿物件」に住んでいると、おのずと人間の視線は先へ先へと注がれるもの。目先のことにとらわれず、どっしりと構えて百年の計をめぐらす生活ができるというものです。ヨーロッパの人々が労を惜しまずに家の手入れをしたり、古い物件を高値で取引するのもうなずけます。

 

一方、日本では、中古物件はたいてい新築よりも価値が低いものです。これにはわけがあります。日本の中古物件の多くは戦後に建てられたものですが、これらの家に使われている化学建材は劣化していく一方だからです。第2章でも述べますが、化学建材に使われる接着剤は時間とともに接着力を失い、けっして回復することはありません。接着力が弱くなると、建材としての強度は下がり、見た目も衰えます。つまり、化学建材の家はどんなに愛情をもって接しても、新築した瞬間がもっとも丈夫で美しいのです。

 

また、リフォームが難しい構造であることも、中古物件の価値を下げる原因になっています。戦後の住宅ブームでは、安く早くつくるための新しい工法が主流となっていったのですが、結果的に日本の伝統的な家と比べて間取りの変更がしにくい構造になりました。こうした物件では、新しい家主がライフスタイルに合わせてリフォームしたくても思うようにできないので価値が下がるのです。

 

しかしながら、日本も徐々に状況が変わり始めています。近年の古民家人気はその表れです。生活が不便ということでこれまで見向きもされなかった明治、大正、昭和初期の伝統的な民家が、スローライフやロハススタイルの意識の高まりとともに見直され、解体寸前で命を救われ再生されています。

 

残念ながら古民家の数には限りがありますが、これらの民家の建築様式を手本にして、何百年も耐えうるいい家をこれから建てることは可能です。時間はかかりますが、そんな家が徐々に増えていき、古いものを大切にするという価値観が当たり前になり、日本の街の景観が変わっていけば、これほどうれしいことはありません。

 

(⑨にづづく)

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